九死に一生・フィリピンで捕虜・鹿児島の祖父と戦争(後半)

前半では、医師として太平洋戦争に召集され、捕虜になった祖父の捕虜収容所でのことまでを書きました。

では、後半です。

祖父の病院は日本の軍隊に接収

祖父の出征中、日本の家族はどうしていたのでしょうか。

祖父が営んでいた病院は、日本の軍隊に接収されていました。当時、学校や病院などの大きな建物は、軍隊の宿泊施設として使われていたのです。

祖父の残された家族は、祖母・母・母の妹の3人。軍隊に接収されていない一部屋で生活していました。軍と同じ建物で生活していたため、母はそのころ見たことを少し覚えています。

それは、台所で、若い将校に殴られる中年の男性。前にも書いたように、若い人が戦争で亡くなって兵士が減ったため、徴兵は中年にも及んでいました。

当時の日本軍に、民間から召集した中年の男性に戦闘技術を教える余裕はありません。そんな中年男性にあてがわれた仕事は「飯炊き(めしたき)」。食事を作る担当です。

軍隊では、上官は部下を殴ってもいいことになっていました。

食事がうまく作れなかったのか、あるいはその上官の機嫌が悪かったからなのかはわかりません。おじさんが若い将校に殴られている姿が、当時小学校低学年だった母の記憶に残りました。

復員船で帰国

終戦後、生き残った兵士たちは復員船で帰国しました。

復員船には、必ず医師がのるように決められていました。そのため、医師は全部の船にばらされ、祖父は最後のほうになって帰国が決まりました。

元上官を襲う部下

帰りの復員船でのこと。

終戦を迎え、もう「軍隊」という規律は存在しません。そして、捕虜収容所とは違い、アメリカ軍の監視もありません。軍隊という組織の、上下関係も消滅しました。

そこで、何が起こったか。

それは、戦争中に上官にさんざん殴られ、いじめられてきた、部下たちの上官に対する憎しみと怒りです。怒りを受けた元上官は捕まえられ、殴られただけではなく、その後、海に放り込まれました。

何度も誤報の後、ついに帰国

日本で待つ家族の元には、祖父が帰国する、という誤った情報が何度も届きました。そして家でごちそうを用意しては、やっぱり違った……ということが複数回あった後。

その日も、祖父が帰ってくる……と聞いて母は駅で待っていましたが、今回も祖父の姿はなく、とぼとぼと家に帰りました。

しかし、母が帰宅すると、そこには祖父の姿が。痩せて、髪がなくなって変わり果てた祖父を、母は自分の父親だとわからなかったのです。

デパートで売られた可愛い子供服

戦後、子供服のことで、母が覚えていることがあります。それは、祖母がデパートの特別セールで買ってきてくれた、子供服。

それは、アメリカの子供の古着でした。

「こんな可愛い服を子どもに着せる国」そして「まだ着られるきれいな服を国民が寄付する国」、アメリカ。そしてデパートでさえ、ものがなくて古着を売っているという日本。

母は、それでアメリカの豊かさがわかった、と言っていました。

アメリカ軍からのお金

祖父の日本での生活も落ち着いてきた頃。駐在さん(交番のこと)を通して、アメリカ軍から祖父に問い合わせがありました。

何のことかと祖父がいぶかりましたが、それは、「フィリピンの捕虜収容所での、通訳の仕事に対する給金を振り込みたい」というもの。

祖父は医師で、通訳ではありません。たまたま英語が話せたから収容所で通訳をさせられていただけです。

しかし、その元捕虜へ、アメリカ軍が通訳の給金を払うという。そのお金は「当時として結構な額」で生活が助かった、と祖父は話しました。

70歳を過ぎた夏、祖父は大声で泣いた

毎年、日本では、8月にはいってから15日まで、テレビで太平洋戦争に関する番組が放送されます。

終戦後、ずっと涙を見せたことがなかった祖父。70歳を過ぎたある夏に、太平洋戦争に関する番組を見ながら、初めて号泣したことを祖母から聞きました。

その祖母もすでに他界しています。

年に一度、戦争について考える

「日本、そして自分の家族のために」戦争に行ったが「戦って亡くなった」のではない人も多いです。フィリピンでは、補給を絶たれた日本軍は、戦うどころか逃げるだけで、兵士のほとんどが戦死ではなく餓死しました。

子どもの頃、甲子園の試合途中に黙とうがあることを不思議に思っていました。そして、8月の前半、楽しい夏休み気分に水を差す、戦争についての怖いテレビ番組にも。

今でも、戦争に関する番組や話を見聞きすると、心が暗くなりますが、せめて8月の前半だけは、特に終戦記念日の8月15日は、戦争の残酷さについて、考えようと思います。

Photo by Alex Block on Unsplash

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