先日、あるサービスを受けようとした時に、相手の人が次々とセールス手法を繰り出してきたのでその経験をお伝えします。
まずはそのきっかけから。
アンケートに協力することに
ある講座で一緒になったSさん。
「参加している別の講座で宿題が出たので、簡単なアンケートに協力してくれる人はいませんか。私について話すので、それを聞いてあなたに意見を述べてもらうという、アンケートです。そのお返しに、ご希望の方には1時間の無料コーチングをします。」
という募集をしていました。
コーチングに興味があった私。よくある無料トライアルより、アンケートに協力するお返しのコーチングなら気楽だと思い、早速申し込みました。
アンケートという名のセールス手法
約束の日時、スカイプで、まずSさんがご自身の生い立ちについて話しました。生い立ちからコーチになる前までのもので、詳細は省きますが、一言でいうと壮絶なものでした。そしてその感想を私が述べた後、次のような私への質問がありました。
「あなたが私にお金を払って、私が出来ることは何だと思いますか?」
「ええと……、そのようなご経験をされていたら、人の痛みがわかるでしょう。今しているコーチングやコンサルティングをすることだと思います。」と答えた私。
「一貫性」人はコミットした後、一貫性を保とうとする
私は、「私がお金を払ってSさんが出来ることは、コーチングだ」と言いました。
実はこれを私に言わせることは、セールス手法の一つ。
この時点で私はまだSさんのコーチングに申し込んでいないばかりか、無料のコーチングさえ受けていません。ですから、一見、何の影響もないように思えます。
しかし人の脳は、一度何かにコミットしてしまうと、自動的に一貫した行動をとる習性があります。
例えば、何かの説明会に行って、「とりあえず仮申し込みだけでも」と申込書への記入を促されることがありますよね。仮申し込みなのでハードルは低いでしょう。しかし、これをすることで、「本申し込み」する人の確率は跳ね上がります。
なぜなら、一度「申し込む」という行動(コミット)をすると、人はそれに沿った行動をとろうとするからです。
さて、その後、私はアンケートのお礼に無料のコーチングを受けました。コーチングを受けるのは初めてで比較対象がないため、その良し悪しはわかりませんが、自分の気づかない内面を知ることができて、面白かったです。
そして終了後、Sさんから「いまのテーマは、今一つだったかも。ご希望でしたら、〇〇のテーマで再度無料でコーチングをします。」という申し出がありました。
「返報性」親切をされるとお返ししたくなる
「1時間だと思っていた無料コーチングをもう1時間追加してくれる!」
Sさんが言ったように最初のテーマが今一つとは、私は思いませんでしたが、喜んで予想外のSさんの申し出を受け、別の日にもう1時間コーチングを受けました。
「無料トライアル」というサービスは、今は一般的に行われています。それは、「そのサービスの内容を知ってもらうため」そして「サービスに自信があるから出来る」という側面があります。しかし、これは実は人の脳の習性を利用したセールス手法の一つ。
人は、何か自分にとって得なことをしてもらうと、そのお返しをしたくなります。それを返報性といいます。
典型的な例は、スーパーの食料品売り場でよく見かける「試食販売」。無料で試食のハンバーグを一切れもらって食べた結果、その商品を買ってしまったなんて経験はありませんか?
これは、一見「味を確かめた結果美味しかったから買った」ように見えますが、実は「無料でもらったから、買ってお返ししよう。」という人の脳の習性をねらったセールス手法で、それに乗っている状態なのです。
さて、別の日に追加の無料コーチングを受けた私。Sさんから、△△コースをお勧めされました。
そして、Sさんは「Aさん(私の知り合い)はこのコースをとっていますよ。」と力強く付け加えました。
「社会的証明」他の人もやっていますよ
知り合いのAさんもとっているのか!とうなずく私。
「他の人もやっていますよ」は、些細な情報に聞こえますが、これもセールス手法の一つ。
例えば、お笑い番組で、明らかに「笑い屋」の声が入っているものがあります。人は、この笑い声-「他の人も面白いと思って笑っていますよ」によって、より面白く感じることがわかっています。
また、透明の募金箱。たいてい、中にはコインと千円札が何枚か入っていますよね。これは、「他の人も寄付していますよ」を無言で表していて、募金へと背中を押しているのです。
さて、「価格がけっこう高いので、HPをご覧になってご検討くださいね。」とSさん。
無料コーチングが終わってからSさんのHPで料金を確認したら、料金は〇十万円という金額。
さすがに「これから検討します」とメッセージしたところ、Sさんからは
「やれるかどうかだけでも結構ですので1週間以内にお返事いただけますか?今年の新規の受付は、来週で終了しようと思っています」
という返事がきました。
「希少性」なくなる前に手に入れなくては!
「今年の新規の受付は、来週で終了しようと思っています」
Sさんがさらっと言った「新規の受付は来週で終了」という最後の一言。単なる情報のようですが、これもセールス手法。
例えば、ブティックの服。ブティックで店頭にないサイズや色を、奥の倉庫から持って来てもらったことはありませんか?そう、お店は、無言のうちにあなたに「これを買わないとなくなります」と告げているのです。
「本日限り」や「閉店セール」と毎日掲げているお店も同じ。
また、お店がもうすぐ閉店になると分かるや否や、常連でない人達までお店に押し寄せて来るのは、お店が意図せずこのセールス手法を使っているからです。
人の脳は、手に入りにくくなるという「希少性」という状態があると、その機会が実際よりも貴重なものに見えて手に入れようとする習性があります。まさにそこを突いたセールス手法でした。
さて、実は私、Sさんを一目見た時から、「こんな人とお友達になれたらなー」と思っていました。
「好意」そしてハロー(後光)効果
Sさんは美形で、にこやか。人の脳は、「器量が良い=好ましい」という判断を無意識のうちにするそうです。
舌鋒鋭い、政治家の小泉進次郎議員の人気が高い理由の一つに、イケメンであることを私が挙げても反対する人はいないでしょう。
そして、好意をもった人、例えば仲の良い友人から何かを勧められたら、断るのは難しくありませんか?
Sさんが美形なのは生まれつきです。それはセールス手法ではありません。しかし、「第一印象がいい」というセールスに有効な魅力を持っているのは間違いありません。
セールス手法にのせられないためには?
さて、今回、Sさんのセールス手法に利用された脳の習性を今一度挙げてみましょう。
- 「一貫性」人はコミットした後、一貫性を保とうとする
- 「返報性」親切をされるとお返ししたくなる
- 「社会的証明」他の人もやっていますよと言われる
- 「希少性」があると、手に入れたくなる
- 「好意」そしてハロー(後光)効果 好意を持っている人の言うことは聞きたくなる
ここにあげた脳の習性は、私達が生き残るために発達してきたものですので、それ自体が悪いものではありません。むしろ、脳のエネルギーを節約するために有効なものです。
例えば、「希少性」のあるものを優先して手に入れようとする自動的な感情が、モノやサービスが少なかった昔、役に立ったことは自明でしょう。
では、このようなセールス手法に対して賢明な判断をするにはどうしたらよいのでしょうか?というのも、セールス手法と商品の質は無関係なので、全部を拒否すると損をすることにもなりかねないからです。
それは、セールスパーソンの利用した私達の脳の習性が何かを見極められれば可能です。
- 「一貫性」なら、以前にコミットしたことがなかったとして、仮に今、初めてこの商品に出会ったとしても、自分はこれを買うだろうか?
- 「返報性」なら、「相手からこれをもらわなかったとしても、自分はこれを買うだろうか?」
- 「社会的証明」なら、「自分が顧客第一号だったとしても、これを買うだろうか?」
- 「希少性」なら、「この機会がいつでもあったとしても、自分はこれを買うだろうか?」
- 「好意とハロー効果」なら、「相手が今の外見ではなかったとして、また、相手に好意をもっていないとしても、これを買うだろうか?」
と考えること。
このように脳が自動的に判断する「条件」が仮になかったと考えてみて判断することで、セールス手法に関係なく、自分にとって「良い物」を選ぶことができるのです。
セールス手法は、それを知っている人には逆効果
今回、私はSさんの提供しているサービスの質の良し悪しには関係なく、申し込みは取りやめました。
一つには、対大人数ならまだしも、一対一でここまでセールス手法を繰り出して来られると、その方に好意を持って信頼していただけに、サーッと気持ちが冷めてしまったからです。好意を持って信頼したのは私の勝手で一方的なものですが、Sさんが私にセールス手法を使ったことで、「私はいいカモだと思われたのかしら?」と感じてしまいました。
もちろん、Sさんにしてみれば、「困っている人を助けるために背中を押した」ということでしょうが。
二つ目は、「Aさん(私の知り合い)はこのコースをとっていますよ。」とSさんが私に教えたこと。私は、「話した内容だけでなく、コースをとっていること」についても守秘していただきたいから。
そして、同じコミュニティーの友人が気づいていたことがあります。
それは、Sさんが、初めから「親切な優しい人」をターゲットにしていた、という点です。「参加している別の講座の宿題に協力してほしい」と呼びかけることで、共感性が高く、親切で優しい人達が「困っているSさんを助けたい。協力します。」と次々と申し込んだのです。
私は気づきませんでしたが、勘が鋭い人はアンケートへの協力の呼びかけがあった時から、そう疑っていたようです。
セールス手法を使った場合、それに気づいた人には逆効果になります。それは、人は誰しも「セールス手法にのせられた」のではなく「賢明な判断をして手に入れた」と思いたいから。
セールス手法で何かを手に入れてしまっても大丈夫
ところで、もしも今、過去のセールス手法に気づいたとしても、「セールス手法にのって手に入れてしまった」と悩む必要はありません。前に述べたように、セールス手法の有無と商品の質とは関係がないからです。
そして、その上で、「質が今一つ」だと思ったとしても、「一貫性」(人はコミットした後、一貫性を保とうとする)という脳の自動的な習性により、何かしらそれを選んだそれらしい理由を脳が探し出してくれます。皮肉なことに。
私は今回初めて、セールス手法を見抜くことが出来ました。
それは、私自身が騙されやすく、今まで様々なセールス手法に背中を押されてモノやサービスを買い続けて来たからこそ言えること。過去については「あの時の私には必要なモノだったのだ」と自分を慰め、今後については賢明な判断をすべく、マーケティングやセールスの勉強をしています。
今後も、何かを手に入れようとした時に、ここに述べたセールス手法を思い出した上で、賢明な判断をしたいと思っています。
最後に、もう一度、今回のセールス手法に利用された脳の習性です。
- 「一貫性」人はコミットした後、一貫性を保とうとする
- 「返報性」親切をされるとお返ししたくなる
- 「社会的証明」他の人もやっていますよと言われる
- 「希少性」があると、手に入れたくなる
- 「好意」そしてハロー(後光)効果 好意を持っている人の言うことは聞きたくなる
このような脳の習性について学びたい方は、この本がお勧めです。
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