この本は、私の主催するワークショップにご参加された方が「面白い」と紹介してくださった本。日本の大企業、大丸百貨店を18年勤めてから辞めた筆者の経験が書かれています。
企業に勤めるにあたって、「カッコ悪い」と思ってしまうこと、例えば、
- 会社のカラーに染まる
- 社内の人間関係に興味を持つ
- クリエイティブではなく堅実にいく
- 飲み会やゴルフで社内の人と仲良くなる
- 信念ではなく会社の意向に従って仕事をする
などを「しなかった」筆者の後悔が書かれています。
結局は、日本の大企業では、上に書いたような「カッコ悪いこと」が「出世するというゲームのルール」なのだというあまり楽しくない結論になっています。
でも筆者は「そうでない行動をした自分」を後悔しているという感じは受けません。それよりも「それがゲームのルールだということを明確に覚悟」していなかったことを後悔しているようです。
会社に染まらない、飲み会やゴルフに行かない、クリエイティブであろうとする、等も、「日本の大企業で出世するというゲームに勝ち残るルールから外れている」と「明確に自覚していればよかった」と。
その意味で、少し皮肉っぽい内容かなと思います。
人事異動に異常な関心を示す人たち
ここに書かれている「社内の人間関係に興味を持てばよかった」を読んで、私は、社内の人間関係、つまり人事異動などに異常な関心を示す人たちのことを思い出しました。
「あなたの人事情報を知っているよ」と自慢
ある外資系の会社で働いていた時、私は当初、秘書だったのですが、「秘書からスタッフになって他部署に異動したい」と上司に申し出たことがありました。私が入社したときには同じだった秘書とスタッフの待遇が、人事制度の変更で変わってしまったからです。
ある日、廊下でばったり会った他部署のマネージャーAさんに声をかけられました。
「〇〇(私)さん、スタッフになって異動したいって申し出てるんだって?」
秘密であるべき人事のことをいきなり言われて私はびっくりし、「それはそうですが、なんでご存知なんですか?」と尋ねたところ、Aさんは「それは言えない」と答えました。
私が驚いたのは、話がそれで終わったこと。マネージャーであるAさんがわざわざ私に話しかけてきたその理由は「自分は知っている」ということを自慢したいだけだったのです。
私はてっきり、マネージャーというAさんの会社での立場から、彼のセクションに空きがあるとか、空きがあるセクションを知っているから紹介してあげるとかそういった申し出だと思ったのですけど。
そして、私がスタッフになって経理に異動することが決まり、それが部内で発表になったあと。
こんどは管理職Bさんが、私の席までわざわざ来て「僕は以前から知っていたんだよ。」とそれだけ伝えて去って行きました。
「以前から知っている」ということを伝えるためだけのために私のところに来たんです。
そのうち、社内には「情報を知っている」ということを自慢し合う人たちがいることがわかり、心から馬鹿にしてたんですけど……。
人事に関心のない管理職に当たると大変
飲みに行ったり、ゴルフをしたり、立ち話をして仲良くなり、「情報交換」と称して噂話をしている人たち。自分の異動のときの出来事以来、私は嫌悪していました。
しかしその後、「社内情報にたけていることは、会社で生き抜くために必要なこと」だとわかりました。
私が勤めた外資系二社。どちらにもあったのが、社内公募制度。それは、部署で空きが出ると、イントラネットで社内から応募を募るという制度。ちなみに社内からの応募で決まらなかった場合は、そこで初めてエージェントを通して会社の外に募集をかけます。
この社内公募制度、会社としては、エージェントを使わないので「採用費用がかからない」というコスト面でのメリットがあります。
そして、採用する部署のマネージャーにとっては、「全く知らない外部の人を採用するよりも、確実に戦力になる人を選ぶことが容易になる」というメリットがありました。
ただし、それは、「ちゃんと社内の情報に通じている場合」のみ。
そのメリットがあるのは、応募があった時に、「〇〇さんって仕事できる?いい人?」と応募者の仕事ぶりと性格についてこっそり聞くことができ、かつ、秘密をもらさない信用できる知人が社内にいるマネージャーだけなんです。
過去、そういった社内ネットワークがなく、誰にも聞かずに本人との面談だけで社内の人を選んだ。その結果、全く戦力にならない人の異動を受け入れてしまい、部下の怒りを買ったマネージャーの例を複数知っています。
この本の中でも、筆者が上司から「社内で、きみの部下に欲しい人を教えてくれ」とたずねられる場面があります。しかし、筆者は誰を推薦していいのかわからない。それはそれまで一切、社内の付き合いをしていなかったから……。
わざわざ自分が人事情報を知っていることを自慢しに来ることは変ですが、「社内ネットワークがあって、情報をすぐに仕入れられる」のは仕事をしていく上で必要なこと。
自分一人で仕事なんかできないのですから。
ドイツ人は、社内ネットワーク作りをどうやっている?
そこで気になったのは、社内の人と飲みにもゴルフにも行かないドイツ人のこと。私はドイツの本社に一年間赴任した経験があります。
その時に分かったのは、彼らはランチの時間を社内ネットワークの構築に使っている、ということ。ドイツでは、お昼休みは一時間ちゃんと取り、その時間に社内のいろいろな人とランチをし、ちゃんと情報収集をしているのです。
日本企業の従業員が、お昼は一人あるいは近くにいる同僚と少ない時間でさっさと済ませる。そして会社の帰りに飲みに行って情報を仕入れるのとは対照的です。
ドイツ赴任中に、こんなことがありました。
私の同僚のCさんを他部署のマネージャーDさんが、訪ねてきました。CさんもDさんもドイツ人です。
同僚のCさんは、海外へ転勤してキャリアアップを狙っていたところ、ある国の子会社に空きがあった。そこで情報通のDさんにたずねていたよう。
Dさんは「残念ながら、そのポジションの上司は性格が悪いと評判で、部下になった人たちが苦労している。だからお勧めしない。」ということをCさんに伝え、Cさんはその転勤を受け入れるのをやめました。
Cさんが「Dさんがいい情報をくれた」と喜んでいたのを覚えています。他国へ転勤しての苦労は国内転勤とは比べようがありませんからね。
「外資系は実力主義、個人主義」はある意味合っています。でももし、仕事は仕事と割り切って「社内の人たちと仲良くなる必要なんてない」と思っている人がいるとするならば、それは誤解でしょう。
セールスの歩合給のような仕事は例外でしょうが、「一匹狼が結果を出す」というのは、組織で仕事をしていたらあり得ないのです。
まとめ
残念ながら、日本の大企業は、クリエイティブを大切にしたり、会社の意向は考えずに信念を貫き通したり、会社のカラーに染まらない人には居づらい場所。
会社に勤めていて、その理不尽さに悩んでいる方はこの本を読み、一度、「会社とはこういうものだ」という大企業での出世のルールについて再認識してみる必要がありますね。
このルール、これから変わっていくのでしょうか……?
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